立花隆〈あの世〉でのインタビュー1  <あの世>の科学的証明:クルックス×河合隼雄×キューブラー・ロス

書籍:「天地の対話」シリーズ3 『新たな地球への遺言』に収録

 

立花隆   (1940~2021年4月30日)   

ジャーナリスト、ノンフィクション作家、評論家。執筆テーマは、生物学、環境問題、医療、宇宙、政治、経済、生命、哲学、臨死体験など多岐にわたり、多くの著書がベストセラーとなる。その類なき知的欲求を幅広い分野に及ばせているところから「知の巨人」のニックネームを持つ。『脳死』『宇宙からの帰還』(ともに中公文庫)、『臨死体験』(文藝春秋)など著書多数。

 

*<天地>の対話方法についての説明はこちら。→<天地の対話>の方法

 

 

2021年7月8日

※宇宙空間に椅子が二つ出てきて、そこに立花さんとクルックスさんが座る。

 

 

立花 『はじめまして、ですよね。地上では生きていた年代が違って会うことはできなくても、こうして〈あの世〉でお話できることを嬉しく思います』

 

クルックス 『確かにそうですね。私もこのように〈あの世〉の者同士でインタビューを受けるのは初めてですし、立花さんのことは興味深く見ていた方でもあったので、ご指名いただき光栄です』

 

立花 『どのような点で興味を持っていただいていたのでしょうか?』

 

クルックス 『探究ジャンルの広さと、その熱心さ。あくなき探究心を私たち科学者と同様に持ち、それを多くのジャンルにおいて究め、統合しようとするところに興味を感じていました。しかし一番難しいのは、〈あの世〉と〈この世〉の統合なんですよね』

 

立花 『おっしゃるとおりだと思いますが、どの点で難しいと感じられたでしょうか?』

 

クルックス 『まず一番大きな難しさは、〈この世〉の方は集合的観念があることです。今は「〈あの世〉はない。そういう古臭い迷信からは抜け出て、我々は厳密な科学的根拠のあることだけを信じる。つまりは、目に見える物質世界こそ絶対なのだ」という観念です』

 

立花 『それはもう、無意識的に刷り込まれている観念でしたね。私たちはなぜそのような観念を持っていたのですかね?』

 

クルックス 『科学的解明によって医療は進化し、作物生産量もあがるなど、人類の物的生活の質は飛躍的に向上しました。その科学的発展にある意味乗っかって、高度経済成長はありましたから、〈この世〉の経済的価値と綿密に結びついた観念として、科学は近代社会に組み込まれたのでしょう。薬の開発、健康産業に至るまで、科学的根拠を巧みにアピールして、各種商品は広まっていきました。

 

神による自然な〈生成と消滅〉から、人間中心に自然をコントロールしていける武器として科学は貢献した、ということです。もちろん、純粋な好奇心をもつ科学者も多くいますが、ここでは集合的観念を形成した背景に限定してお話しています』

 

立花 『はい、よく分かります。純粋な科学者にも多くお会いし、尊敬の念を持ってきましたが、そうでない科学者にも、ずいぶんお会いしました』

 

クルックス 『はい。このような背景から、グローバルスタンダードの観念として、〈唯物主義、経済原理、科学万能〉はセットで、切り離すことのできないものとなりました』

 

立花 『だからこそ、〈あの世〉とは相容れない〈この世〉の科学になった。そして宗教や哲学と科学が切り離されたということですね』

 

クルックス 『そうです』

 

立花 『私は哲学と科学を統合したいと思っていましたが、その科学が検証するのは〈この世〉の物質世界のみである、という観念があったとしたら、確かにその統合は難しいですよね。

 

その点、〈あの世〉は存在するということを、科学的に検証したということを、人類が受け入れていたとしたら、また違った展開になっていたということですね。それは〈この世〉を絶対視する観念を打ち砕くことになるから』

 

クルックス 『はい、私もそう願っていましたが、どれだけ厳密な実験をしたと公表しても、一度できた唯物的観念を、しかもそれは都合がよく心地よいものを、ひっくり返すということは容易ではないのだと、その壁の厚さに愕然としました。

 

「〈あの世〉なんてない、それを科学的に証明するなんてありえない、あいつは頭がおかしいのだ」

と攻撃されるわけです』

 

立花 『私も〈あの世〉の証明については観念で弾いて、興味を持たなかったので、その頑固さは分かります』

 

クルックス 『科学は事実をありのままに認めるものであり、それは〈この世〉のことに関する限定的な手段ではなく、〈あの世〉の霊が物質化して現れたならば、それもそのまま確かかどうかを科学的に検証した、というだけのことだったのですが…。

 

徹底的な記録だけでなく、何百枚もの写真を撮り、録音もし、参加者の目撃証明さえつけても、真剣な研究対象とすら認められませんでした。むしろ、そのような明らかな提示ほど、強い反発を受けました。

 

時代を経て、個人の臨死体験にテーマは移行していきましたが、その時はいかがでしたか?』

 

立花 『個人的体験としては自由に発することができても、それを学会で発表するとなると、そこから締め出される、あからさまに無視をされるような状況はあったようでした』

 

 

※そこに河合隼雄さん、キューブラ・ロスさんが参入する

 

河合 『さらっと冗談ぽく言うのはOKでも、学会ではかなり気をつかって〈あの世〉の話は避け、なるべく〈この世〉の話として見せる努力が必要でした。それを堂々とやると、学者生命が終わりますからね。

 

男社会というのは、観念のトップダウン、それに見合わなければ排除するという、権力による威圧はかなり強く働いています。私などはかなり保身的な方でした。そのため私やユングは、直子さんには「チキン」だと言われてきました()

 

立花 『それに比べると女性はどうだったのでしょう?』

 

ロス 『保身よりも、自分が信じること、そして社会にとって必要なことは言いますよね。それでものすごく叩かれて、怒りが溜まってしまうのですが()。でもその方が爽やかに生きられます。

 

男の権力構造と保身が、集合的観念をさらに強固にしていったところはあるのではないですか? みんな正しいことを言えなくなれば、観念の刷新はされないですよね』

 

立花 『耳が痛いお言葉です。社会的な保身、とくに学問分野に関しては、それはありましたね』

 

河合 『日本の場合ですが、〈あの世〉に関しては、何となくあるかもしれないと思いながら、曖昧にしておきたい。だから、写真などの証拠を目の前に提示されると、スピリチュアリストでさえ嫌がりますよね。とにかく考えたくないんです、〈あの世〉のことは。

 

一般的な集合的観念としては、やはり〈この世〉の唯物主義で社会は動いていますからね。それに魂や〈あの世〉を持ち出されると、死後を含めて「なぜ生きるのか」が問われてしまう。快楽主義を通せなくなり、神を想定せざるを得なくなる。

 

〈人生回顧〉や〈因果応報の法則〉は最も避けたいことですから、考えたくない、葛藤したくない。そして今や、人類全体がもはや考える力もない脳になってきている、ということでしょうね』

 

立花 『その狭間にあった時代が、〈あの世〉の物理的証明だったのですね。シリーズ1(書籍:「あの世とこの世の仕組み」)の論立てのベースに、クルックスさんのお話が、まず最初に出てくる理由がよく分かりました。哲学と科学を統合するためには、「〈あの世〉との交信は証明された事実である」ということをまずは押さえないと、その後の展開は机上の空論になる。

 

でも〈あの世〉の存在を事実として受け入れた上で、超ひも理論などの最先端の科学と心霊学を統合し、〈あの世〉と〈この世〉の仕組みを、全体像をとらえて体系化していったからこそ、シリーズ1の叡智の結晶は生まれた、ということなんですね。

 

〈あの世〉の物理的証明という〈事実〉を、受け入れるかどうかが問われていたにも関わらず、人類は唯物的な観念の中に閉じこもってしまい、〈この世〉しか認めないという偏狭さを強化してしまった。

 

それが強固な集合的観念となり、それに応じて都合の悪い情報は自動的に弾き、自分たちが見たいように世界を見ているのが私たち現代人なのだ、ということですね。

 

科学的な目で見るということが、最もニュートラルで冷静な現実分析であると思ってきましたし、その科学はどこか万能であり、最先端であると思ってきましたが…』

 

クルックス 『もちろん、今の最先端の科学者は、もはや唯物的な観念に捉われていない方も多く、やはり事実に即して捉われずに見定めていけるのは、科学が最も有力なツールであることには変わりはない、と思います。その科学を使う人が、どのような観念を持っているかが問題なのでしょう。

 

とらわれのない人ほど、観念から解放された自由な思考力を持っているのでしょうね。先日のサラチームでの話、「観念を一つずつ外していくことが、〈あの世〉のアクセスする次元を上げていくことだ」というのにも通じます』

 

立花 『確かに、そういう観念から解放された方とお話するのが、最も心地よいなと深い所では感じていました。

 

今回の対話では、科学を利用する現代人の集合的観念が明らかになったように思います。みなさん、お話を聞かせていただき、ありがとうございました』

 

【クルックス博士と物質化したケーティ・キング霊が一緒に写った写真】

画像出典:浅野和三郎 著/黒木昭征 現代語訳『読みやすい現代語訳 心霊講座』(ハート出版)

 

 

 

 

【目次】へ戻る