雑誌 岩戸開き 連載<天地の対話>によるリセット・リスタート 第7回 死後の世界の証明(その1)
除霊による精神病患者の治療
前回予告した、「死後の世界の証明のために、確かな証拠を提示しようとした本」を、拙著『死の向こう側 本から学ぶスピリチュアルな世界』の中から、その第一弾としてC・A・ウィックランド著『迷える霊との対話 精神病を除霊で治した医師の30年』1924年(近藤千雄訳、ハート出版、1993年)をご紹介したいと思います。
米国の精神科医によって約百年前に書かれたこの本は、除霊によって治癒した精神病患者についての、758ページにわたる詳細なケース報告です。私はたまたま訳者の近藤先生から、精神医学用語についての質問を受けたことによって、今では入手困難なこの本に出合うことになりました。
ウィックランド博士が、このような問題を考えるきっかけとなったのは、当時流行していたウィジャ盤(注1)で対話しているうちに、突然人格変化をきたしたり、錯乱状態になったりして入院してきた患者、例えば普段は信心深くおとなしい人が、急に荒々しい性格になってはしゃぎまわったり、下品な言葉遣いになったりするという患者を、精神科医として診るようになったからでした。
彼はその原因として何らかの心霊現象があるのではないかと考え、信頼のおける仲間たちが催すホームサークル(注2)に妻のアンナと二人で参加してみました。すると、妻に霊媒能力があることがわかり、彼女を通して霊が次々と現れるようになって、<マーシーバンド>と名乗る霊団から以下のような提案を受けました。少し長くなりますが、引用してみましょう。
<マーシーバンド>からの提案
「事実上、“死”というものは存在せず、肉眼に映じる世界から映じない世界に移るだけのことである。問題はその“死”つまり、肉体からの解放があまりに簡単で自然であるために、大半の人間はしばらくの間―個人によって長短の差はあるが―その変異に気づかず、霊的知識が欠如しているために、地上の懐かしい場所をうろつきまわっている、ということだ。
そうしたスピリットの中には、そのうち人間の磁気性オーラにひきつけられて乗り移り ―本人も人間の方もそれを自覚していないことが多い― それが原因となって数知れない災害や悲劇が引き起こされ、病気・不道徳行為・犯罪・精神病などが生じているケースが数多くある。スピリットの側はそうとは知らずにいる場合もあるし、悪意からそうしている場合もある。こうした霊的要因による障害の危険性は、好奇心が先走りして、指導者なしに心霊実験に手を染めた場合が最も大きいが、そうした事実を知らずにいることはさらに危険なことで、感受性の強い神経症患者の場合は特に注意を要する。
こうした説明の後で霊団は、さらに次のようなことを言ってきた。すなわち一種の転移方式、具体的に言えば憑依しているスピリットをその人間(患者)から霊媒へ乗り移らせることによって、右の霊魂説の正しさが証明できるし、霊的症状の内側の事情も明らかにできる ―患者は正常に戻り、憑依霊はその後霊界の事情に通じたスピリットの手に預けられ、その看護の元で霊的真理についての教育を受けることになる、というのである。
そのうえで彼らは、そうした実験の霊媒役として私の妻が適切であるとみており、もし私が彼らに協力して、一時的に妻に憑依させるスピリットの話し相手となって話を聞き出し、また諭してくれるならば、彼らの主張していることが正しいことを証明して見せる― 私の妻には一切の危害は及ばないようにする、と提案してきた」
超自然的現象は未解明の自然現象
以上のような提案を受けて、ウィックランド夫妻とあの世の<マーシーバンド>との協力によって、憑依によるさまざまな障害を治療する実験が30年間にわたって行われました。その何百もの対話は速記者によってすべて記録され、多くの憑依霊の身元が確認された、また霊媒のウィックランド夫人は、憑依霊によってまったく知らない6か国語を話した、ということです。
私自身、二十代は臨床心理士として精神病院で働いていて、統合失調症の患者さんから、幻聴と現実の人の声を区別するのはとても難しいという話を、よく聞かされていました。かつては幻聴や人格変化の原因は憑依によるものと考えられていましたが、近代の唯物主義・科学主義の世の中になってからは、原因不明ながらも憑依説は否定されています。
しかし、ウィックランド博士は最後に「本書で紹介した実証的資料によって明らかになったことは、説明のつかない現象も適切な手段さえ講ずれば、必ずや原因は究明されるということである。超自然的現象というのは、原因の解明されていない自然現象のことである」と明言し、「証明しようと思えば明々白々たる事実を、他の思想分野の人々はよくぞこれまで無視してこられたものだ、と思うのである」とも述べています。当時はこのような証明が、学者生命をかけてもたくさん行われていましたが、すべて無視されたり握りつぶされたりしたまま、今では知る人がほとんどいないというのは本当に残念なことです。
百年前と現在の憑依の違い
ただし、この時代の多くの憑依は体ごと低層階の憑依霊に取りつかれて、明らかに幻聴やら人格変化やらが見られ、外からもそれとわかるような憑依が多かったのですが、現在の憑依は小脳や幽体脳からひそかに行われ、その憑依霊もかなり幽界上層部の頭の良い操作的な霊が多くなっている、という違いはあるようです。
ですから、今回の特集テーマは「日本の女性覚者たち」ということですが、今の時代は一旦は覚者となっても、日々<正見>による内的浄化を図っていなければ、いつの間にかそのような上層部の憑依霊にとらわれてしまう、ということも多々起こっているようです。そういう意味では、毎日の生活を正直に誠実に生きることこそ、<魂の向上進化>を果たすためには重要なことなのでしょう。
(注1):降霊術のために用いる文字盤。日本のコックリさんと同じように、複数人で文字盤を囲みコマに指を添えて、その動きによって質疑応答をする。
(注2):霊媒を介して死者との対話をはかるための会合。19世紀半ばの欧米において、特にブルジョワサロンを中心に熱狂的に行われていた。